親の、母の力

暑い夏の日だったんだろう。

私と母と妹で電車にのっていた。

どこに行くんだったかはわからない。

父親ももしかしたらいたかもしれない。でも記憶のなかにはない。

それなりに電車も混んでいたのだろう。

妹はドアにもたれていた。もしかしたら母が抱いていたかもしれない。

電車が駅につき、ドアが開く。

そのドアの窓に妹の腕がくっついてすべらずに、そのままドアに腕を引きずられてしまった。

その瞬間、母がとても大きな声をあげた。

すぐに車掌さんも気が付いてきっともとに戻したのだろう。

その場面は覚えていないけれど、大事にいたらなかったということはそういうことだろう。

なによりも覚えているのはそのときの母の大きな声と必死な顔だ。

周りは当然たくさん人がいたのだけれど、そんなことはお構いなし。

その声の大きさと必死さが親の力強さを感じさせてくれた気がする。

親は子どもになにかあったら、本気でなんでもするんだ。

人の目なんかなりふり構わず子どもを守るんだ。

そんなことを感じた気がする。

親の一言で、電車のすべての扉が動いた。

ドアはすべて連動しているから当たり前だけれど、そのことにすごく心が動いたところもあると思う。

これはよく思い出す場面だ。